「やる気が足りない」「怠けているだけ」と自分を責めていませんか?
実は 片づけが滞る最大の原因は “実行機能” の負荷。注意の切り替え・作業記憶・タスク開始スイッチなど脳の司令塔(実行機能)が疲れているだけです。
本記事では メタ認知 という“脳の取扱説明書”を使い、タスク分割+可視化で負荷を下げる具体策と、自分への思いやりでアビリティズム(できる/できないで人の価値や能力を測る考え方)の呪縛を外す考え方を紹介します。
「片づけられない=やる気がない」は思い込み
部屋が散らかると、つい「私は怠け者だ」「意思が弱い」「だらしがない」「人として当たり前のことができていない」と自分を責めがちです(実際にこれまでのクライアントから聞いたフレーズです)。
しかしながら最近の心理学では、片づけが止まってしまう理由の1つは「脳の司令塔(=実行機能)」の疲れが関係していると言われています。
実行機能は、
- やるべきことを思い出す
- 取りかかる
- 手順を保ちながら最後まで続ける
この三つを同時に行う“頭の中の段取り係”です。発達特性(ADHD、ASDなど)によるケースだけでなく、睡眠不足、仕事や育児のストレス、高齢化による認知機能の低下、その他病気などで司令塔が疲れると、「片づけよう」と思っても体が動かなくなるのはごく自然な反応なのです。ものすごく疲れている時、睡眠不足の時、考えようとしてもまったく進まない経験は誰にでもありますよね。
脳を助けるカギは「メタ認知」=ふり返りの習慣
ここで役立つのがメタ認知、「自分の考え方や行動を一歩引いて観察し、調整する力」です。
- 今、何に手こずっているのか
- どこで迷子になるのか
- どんな工夫なら負担が減るのか
――こうした“自分の取扱説明書”を作ることが、散らかりを改善する行動を生み出す近道になります。
「自分には無理だ」とあきらめて、今のストレスを抱え続ける必要はありません。もちろん人に頼る方法もありますが、工夫しだいで自分がスムーズに行動でき、満足できる環境をつくることも十分できます。
タスク分割で「ひとつずつやれば終わる」に変える
実行機能が疲れているときは、手順を“驚くほど小さく”切り分けることが重要です。たとえば「おにぎりを作る」を次のように分けてみましょう。
- 炊飯器の蓋を開ける
- お茶碗を食器棚から取り出す
- 炊飯器の横にあるしゃもじを使って、ご飯をお茶碗に1杯分取る
- しゃもじを炊飯器の定位置に戻す
- 炊飯器の蓋を閉める
- ふりかけを1つ取り出す
- ふりかけの袋を開ける
- ふりかけをご飯にかける
- お箸を食器棚から取り出す
- お箸を使ってご飯とふりかけを混ぜる
- ラップを引き出しから出す
- ラップを20㎝角程度、取り出して切る
- ラップの箱を引き出しにしまう
- ラップの真ん中にお茶碗からご飯を移して置く
- ラップでご飯を巾着のように包む
- おにぎりの形に手でにぎる
- 使ったお箸とお茶碗をシンクに持って行く
- 使ったお箸をお茶碗をスポンジと洗剤で洗う
ここまで細かく書き出すと、「何から手を付ける?」「今は何をしているの?」と考える余地がなくなり、実行機能への負担が激減します。
ちなみにどこまで細かく分割するかは、人によって違います。でも、生まれてはじめておにぎりを作る人に対しては、片づけまでを含めて手順を伝えますよね。実は「おにぎりを作る」という1つの行動にも、そのくらいたくさんのことが絡んでいるのです。
また、おにぎりをこれまで何度も作ったことがある人はここまで具体的に手順を書きだすことが難しく感じたかもしれません。それは、私たちはこのような手順を繰り返しているうちに行動が習慣になり、無意識に行動できるからです。
これは、片づけや家事でも同じです。
「テーブルの上を片づける」ではなく
- テーブルの上のゴミをゴミ箱に捨てる
- 食器を1か所に集める
- 食器をキッチンのシンクに入れる
- 使用したランチョンマットを拭く
- ランチョンマットを収納場所にしまう
- ふきんを水道水で濡らす
- ふきんをかたく絞る
- テーブルの上をふきんで拭く
- ふきんを水道水で洗う
- ふきんをしぼる
- ふきんを布巾かけに干す
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このように、具体的に何をどの順番で行えばいいのかが明確にわかっていると、行動しやすいです。(この記事は実行機能についてですが、小さなお子さんはこのような片づけの手順を学んでいないため、見て真似ることが苦手な子の場合は1つ1つ一緒に伝えながら片づけると理解しやすいです)
可視化と“ゆるい協力”で作業記憶を節約する
細分化した手順は、付箋やマグネットシートなど目に見える形で並べておくと、いちいち思い出す手間が省けます。
このような可視化の方法は発達障害の方のサポートとしてよく使用されているのですが、同時に世界中の企業で「カンバンボード」として知られています。カンバンボードは、トヨタ自動車が1940年代に開発した「トヨタ生産方式」の一部として誕生しました。生産チームと倉庫チーム間のコミュニケーションを円滑にするために、作業状況を看板に書いて共有したのが始まりです。その後、ソフトウェア開発など他の分野にも応用され、現在では「KANBAN BOARD」として世界中で広く使われています。
常に表に出ていないかもしれませんが、会社にはマニュアルがあり手順がわかるようになっています。(私もうっかりが多いので、マニュアルを毎回作成・確認していますが、時にこれを「もうわかっている」と確認省略すると、ミスが起こります…)
また、1つ1つの行動をする時に「指差し確認」をするのも日本の文化では日常的に電車で見ますしなじみ深いですよね。これも頭の中だけで考えるのではなく1つ1つ決められた内容を、復唱しながら指をさしながら確認するので抜け漏れが起きにくい効果があります。
また、タイマーの使用もいつでも効果的です。
時間を区切って動けますし、時間がいつのまにか経過しないようにリマインドしてくれます。
さらに、それでもなかなか動けない時には友人や家族とビデオ通話をつなぎ日本でよく「もくもく会」と呼ばれる「お互い無言で30分片づけること」だけでも、脳は“誰かと一緒”という刺激で動きやすくなります。これは発達障害のある人たちがよく使うテクニックで、「ボディダブル」と呼ばれています。
自分を責めない――自分への思いやりの視点
片づけに限らず、うまくいかないときに私たちを苦しめるのは「できない自分=ダメな人」という思い込みです。社会には「できるのが普通」という前提があり、ここから外れると"できない人" “怠け”と見なされがち。この無自覚な差別をアビリティズムと言います。
- 疲れやすい体質
- 集中が途切れやすい脳の癖
- 補助具やリマインダーが必要な生活
これらは欠点ではなく、その人にとっての自然な特性です。自分で「欠点」というラベルを付け続けてしまっては、いつまでも自分がつらいままです。自己批判をやめましょう。
目が悪い人は眼鏡をかけるのが社会的に当たり前になっているので、「メガネをかけずに頑張れよ!見ようと努力しなよ!甘えるなよ」と誰も言いませんし、本人もそのような社会通念が存在する分「目が悪い自分はダメな人間なんだ…」とは思わないです。
他のことにも、こうやって「できなくても工夫があれば大丈夫」という文化、工夫の方法が当たり前に世の中に溢れている社会になることがいいですよね。
ただ、そのためにまず自分でできることは自分への思いやりです。
「私は脳の司令塔が今、少し電池切れなんだ」と受けとめ、自分に優しい仕組みを用意するほうが、結果的に自分で望む行動が進みます。
おわりに
散らかった部屋を前に立ち尽くすのは、意志が弱いからではありません。
- 脳の司令塔(実行機能)が疲れているなど自分の状態を受け止める
- 自分の状態を観察し(メタ認知)、手順を小さく区切る
- 何をするか目に見えるようにして協力者で負担を減らす
- 「できない自分」ではなく「工夫すれば動ける自分」を認める
――この4ステップで、片づけのハードルは確実に下がります。今日からまずは「タスク1つを紙に単独の行動に分解して書き出す」だけでも試してみてください。脳が少しずつ軽くなり、行動が動き出すはずです。
自分に思いやりをもちながら、1歩1歩進めていきましょうね。
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